夜の海とまひるの公園

まんなかでしきられているので、
ふたつにたたむことができそうです。
ひらいてみると
左には夜の海、右には、まひるの公園。
このふたつの絵には、
共通したものがえがかれています。
作者は小学6年生の女の子。
青い空にむくむくとわきあがる入道雲。
ひかげがないので
人のすがたはまったく見当たりません。

耳をすませば
かすかに水のながれる音。
そんな音があるからこそ
わかるしずけさ。
蝶々がいっぴき、
ふんすいの水とたわむれています。

こちらは
星あかりのある夜の海。
遠くで、なにかがはねる音がする。
な、なに?

白いイルカがしぶきをあげて
空中にまいあがりました。
けれどもそれも一瞬のこと、
また夜の海はそれまでのしずけさにもどっていく。
音があることではじめて気がつく
海のしずけさ。
作者は絵のなかに
しずけさという音の世界をつくり、
そこに詩(ポエジー)につうじる美しさを
見いだしました。

ふたつの絵はかたちのうえでも
対(つい)になっていることを
作者はそれとなく表現しています。

少年少女世界の美術館より 司馬遼太郎
少年や少女たちが、
その年齢のときから美しいものにあこがれ、
何が美しく、何が嫌悪すべきものであるかを身につけなければ、
きっと醜悪なものの中で
平然としている人生を送るにちがいない。
美の訓練は、
智恵のできた大人になってからでは遅いらしい。

しずけさをかんじるということは
時間を感じるということ。
これは人間だけがもつ能力です。
この一枚の絵からでも
作者の個性的で、文学的なもののとらえかたを
みることができます。
そこにあるものをえがくのではなく、
そこにあってほしいものをえがく。
だいたんな着想をさりげなくさしだし、
表現のおもしろさを感じさせる
とてもいい作品になりました。

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