しずかにつり糸をたらす

雲の上からしずかに
つり糸をたらす。
どこか夢のなかのようなふしぎな光景です。
作者は小学6年生の女の子。色鉛筆画。


短い線で面をうめていく描きかたは、
静かな情熱さえ感じられます。

そのせいかこの絵には
わたしたちの日常にあるような
音がいっさいありません。
いま、つりざおがしなり、なにかが
かかったという手ごたえ!

わたしはゆっくりさおをもちあげ、
雲の切れめから
それをたしかめてみる。

それはわたしがいま
いちばんほしいと思っていたもの。

わたしはそれをたぐりよせながら
ふと気がつく。
わたしが欲しいと思っているものは
どこか見知らぬところにではなく
わたしの心の内部に
すでにこうしてあったのではないか。
それが希望のかけらであることを
わたしは見なくてもわかっていた。

少年少女世界の美術館より 司馬遼太郎
少年や少女たちが、
その年齢のときから美しいものにあこがれ、
何が美しく、何が嫌悪すべきものであるかを身につけなければ、
きっと醜悪なものの中で
平然としている人生を送るにちがいない。
美の訓練は、
智恵のできた大人になってからでは遅いらしい。

一枚の絵は、
ときにことば以上に作者の思いを
表現することがあります。
思いには形がないので
それだけに、絵にするのはむずかしいのですが、
それをわかっての挑戦でした。
この絵も、作者がこの年齢のこのときにしかかけない、
あわい色あいのなかに自分を知ろうとする
強さをひめた、
とてもすてきな絵になりました。

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