マトリョーシカと ものがたりの世界

このマトリョーシカ人形には
体の部分にきれいな絵がえがかれています。
まるで人形たちが
ごらんくださーいと絵をかかげているかのよう。
作者は小学6年生。女の子。水彩。

この作者も
こんなお話しなのではないかな、などと
想像しながらえがいたにちがいありません。
マトリョーシカ人形は
いちばん大きなこの人形のなかに
順番におさまるようにつくられています。

この人形にえがかれているのは
月、白い鹿、そして月をゆびさすように
大きく両手をひろげた
高貴な女の人。

二番めのマトリョーシカ人形。

ここにえがかれているのは
ロシアらしい服装のプリンス(王子さま)です。
あれ、あの鹿は?
あの鹿はじつはこの王子でした。

どういうこと?
なにものかによって変身させられていたが、
いまそのじゅもんがとけて
もとにもどることができた。
こうかんがえるといっきに民話の
ファンタジーの世界に近づきます。
三番めは
美人と評判のマトリョーシカ人形です。

ここには王子も白い鹿もえがかれていません。
鹿とたわむれていた女性の
両腕をむねのあたりにあげただけのポーズ。
これはおどろきの、
あるいはたいせつなものをうしなったという
なげきの表現なのでしょう。

想像力のゆたかなひとなら
この三枚の画像からもっといろいろなものがたりを
ひきだしてくるかもしれません。
それだけこの作者が
細部をおろそかにせず、
しっかりとえがいているしょうこです。
最後のマトリョーシカ人形には
民家がえがかれています。

わたしたちは冬の長い夜を
民話やものがたりで
こんなふうに楽しくすごしているのですよ。
そんなメッセージがつたわってきます。

少年少女世界の美術館より 司馬遼太郎
少年や少女たちが、
その年齢のときから美しいものにあこがれ、
何が美しく、何が嫌悪すべきものであるかを身につけなければ、
きっと醜悪なものの中で
平然としている人生を送るにちがいない。
美の訓練は、
智恵のできた大人になってからでは遅いらしい。

作者は背景に金色をつかい
工芸的なうつくしさで絵の全体をつつみこみました。
黒、白、灰色をつかいわけた下半分は
規則的にならべたようにみせながら
マトリョーシカ人形がくっきりとみえるように
くふうしています。
思わず細部に目がいってしまう
とてもみごたえのある絵になりました。


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