月の光とフクロウ

耳をすませてください。
かすかに何か聞こえてきませんか。
あれは月の光がしたたり落ちる音です。
ぇっ、ほんとうですか。
フクロウのわたしがいうのだから確かです。
作者は中学3年生の女子。油絵。

月のひかりが一滴、水のおもてに落ちる。
水の輪ができるが、
また、もとにもどる。
この音を聞きたければ、
あなたは静けさを表現する必要があります。
フクロウのアドバイスに、
作者は敏感に反応しました。

絵のハイライト(もっとも明るい部分)を
フクロウのひたいのところにもってきたのも、
そのひとつです。
月の光はながれるように
フクロウの体をすべりおち、
それまで平板だった体が、
立体的に立ち上がってきました。

厚くもりあがった絵の具の存在も、
この絵のしずけさを支えているのでしょう。

よけいなものをそぎ落とし、
フクロウのかたちを抽象化していく。
すると神秘的なふんいきが、
絵のなかにひろがりました。




司馬遼太郎 少年少女世界の美術館より
少年や少女たちが、
その年齢のときから美しいものにあこがれ、
何が美しく、何が嫌悪すべきものであるかを身につけなければ、
きっと醜悪なものの中で
平然としている人生を送るにちがいない。
美の訓練は、
智恵のできた大人になってからでは遅いらしい。

フクロウのこの目は、
いったい何をみているのでしょう。
フクロウの視線はわたしではなく、
どこか遠くをみているかのよう。
それはわたしであり、
わたしではないもの。
たましいのようなものかもしれません。
神秘的なふしぎさを感じさせる、
ユニークで、
とてもおもしろい作品になりました。


スポンサーサイト