雨の日の玄関

赤い靴ひものついたお気に入りの
白いスニーカー。
このおきかた(ちらばしかた)にするまで
何回もやりなおしをくりかえしました。
作者は中学1年生の女の子。油絵です。

それだと「ただいまー」ではなく、
「ごめんくださーい」のぬぎかたにみえてしまう。
かけこみ乗車で、
靴がぬげてしまったみたい。とびすぎ。
やっとなっとくのいくおきかたを発見しました。

スニーカー、かさたて、かさ、長靴、サンダル・・。
ここからわかるのは
スニーカーでもだいじょうぶなていどの
そんな空もようです。
だからいったでしょ。ながぐつにしなさいって。
わかったー。それより、おなかすいたー。
ブルーのながぐつは
スニーカーにくらべるとちょっとちいさめなので
妹か弟のものでしょう。
かさ立てのいっぽんはこの作者のもの。
もういっぽんは
おかあさんのものかもしれません。

右側には靴箱があります。
その上にかざってある
小さな額らしきもの。

目を近づけていくと・・。

馬のようにもみえるし、ワンちゃんのようにもみえる。
いつもみんなの目にふれるところにおかれている。
ということは
家族にとって大切なもの。
あるいはパパの趣味の、
パパだけのとくべつなコーナー。
こんなところにも住宅展示場にはない、
家族の風景があります。
玄関までの距離を感じさせるように
カーペットでじょうずに遠近感をつくりだしました。

少年少女世界の美術館より 司馬遼太郎
少年や少女たちが、
その年齢のときから美しいものにあこがれ、
何が美しく、何が嫌悪すべきものであるかを身につけなければ、
きっと醜悪なものの中で
平然としている人生を送るにちがいない。
美の訓練は、
智恵のできた大人になってからでは遅いらしい。

家族にとって玄関は
関所のようなものです。
そこを通らなければ外とはつながれない。
玄関の風景は
そと(社会)とうち(家族)を
その家族独特のかたちでうつしだしています。
目のつけどころがおもしろく、
油絵でしかだせない色彩のうつくしさで、
絵をみる人の想像力に挑戦するような
おもしろい作品になりました。

